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小越 建典

タブーに挑む 前編

食品業界の新たなプラットフォーム「シェアシマ」を運営するICS-net代表の小池祥悟さん。業界特有の高い壁を越えるべく、熱き挑戦を続けています。



食品業界に隠された問題


フリーズドライの野菜が大型トラック2台分、 生の状態なら200トン分もの食品原料が、 すべて廃棄されていく。

「こんなこと、いつまで続けるのだろう…」

小池はつぶやいた。


日本の食品ロスは年間523万トン。

うち4分の1の125万トンが、食品製造業から出ている。

数字だけみれば、メディアで話題になる恵方巻きや クリスマスケーキの売れ残りより ずっと大きな問題。

食品メーカーで20年間勤務する小池は、 そんな業界の矛盾を目の当たりにしていた。

営業やマーケティングの部署では、ロスは「原価」に含まれた数字で理解するので、 実感は湧かなかった。

しかし、製造、調達と、現場を経験すると、 棄てられる食品の山を間近で見ることになる。

業界特有の根深い問題を、嫌でも体感した。

例えば、ひとつのカップ麺ができるまでには、 多ければ100社以上の食品原料メーカーが関わっている。

最終製品のカップ麺が計画通りに売れないと、 原料や中間加工品が大量に余る。 大抵は他に行き場もなく、廃棄されるという 構造的な問題だ。

これが、毎シーズン繰り返されているわけだが、報道やSNSで注目されることはなく、従って生活者の問題意識が育たない。


放っておけば、日本の食品業界はこれからも大量の廃棄を続けるだろう。


今、自分が動かなければ。

2017年8月、小池は安定した職を離れ、 ひとりでICS-netを創業した。


食品ロス


タブーに触れたビジョン


小池が構想したビジネスは、食品原料のセカンダリーマーケットだ。

原料を余らせた食品メーカーと、それを使える食品メーカーが、出会う場をつくれば、少しでもロスが減らせるはずだ。


2019年、小池は食品開発のための原料検索サービス 「シェアシマ」をローンチした。

食品原料を自由に出品し商談ができるオンラインのマーケットプレイスだ。


「原料をシェアしよう」「食品製造でのロスを減らそう」


商談を持ちかけると、ほとんどの食品メーカーは、小池の言葉に賛同した。


しかし…


それはタブーへの挑戦だった。


「食品を余らせている(棄てている)」という事実を世に知らせることで、 食品メーカーのブランドが毀損される可能性がある。

多くのメーカーは、原料を提供するBtoB企業であると同時に、 最終商品を市場に提供するBtoC企業であるため、 そのリスクをとれない。


業界の誰もが食品ロスの問題を認識し、 解決したいと考えてはいるが、 自社の情報は出せないのだ。

しかも、レガシーな食品業界のデジタル化は 他に比して圧倒的に遅れている。

メーカー同士の出会いの機会、 例えばリアルの展示会などは盛況だが、 オンラインの場に参加するマインドは低かった。


2020年にコロナ禍がはじまると注目されたものの、 ビジネスとして収益を上げられるほど、 業界の態度は変わらない。


事情は理解していたが、小池にとって大きな誤算。

そして、会社のキャッシュは尽きかけていた。


 

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