
今、スタートアップがおもしろいのは、日本経済の浮沈を握る存在であると同時に、斬新かつ深いアイデアが刺激的だから。ライターの小越は、100社以上に取材してきましたが、そのたびに新規性や経営者のビジョンに驚かされてきました。
たくさんの会社が活躍するなかで、今回は2025年により広く、大きく注目を集めるであろうスタートアップ3社をピックアップしました。いずれも、あらゆる企業、経営者が参考にできる、グロースのヒントが隠れています。
1.YAOKI
月面探査車「YAOKI」を開発しています。元トヨタのエンジニアで、アウディなどの開発に関わってきた中島紳一郎さんが創業、社員数15名(公式サイトより)の小さな会社です。
YAOKIのいちばんのポイントは軽量設計。わずか500gしかないので、月面へ運ぶ際の輸送コストが大幅に削減できます(なんと1kg運ぶのに1.4億円もかかるとか!)。
また、2輪なので小回りが効いて、転んでも何度でも起き上がれる。まさに「八起(YAOKI)」の名前どおりです。100mの落下試験をクリアする耐久性も備えており、窪地や洞窟内の探査に向いているといいます。
NASAの月輸送ミッション「CLPS」に選ばれており、延期が続いたものの、今年こそは早々に月面到達が実現する見込み。洞窟内にも行けるので、水など資源を調査したり、月面基地建設のデータを集めたりと、ビッグビジネスに発展する予感です。
これだけでも素晴らしいですが、BtoCまでビジネスの構想を広げている点がすごい。YAOKIは月輸送機を通じて、地球から遠隔操作できるのですが、それを一般のユーザーに体験してもらう「仮想月面旅行」を企画しているんです。
中島さんとYAOKIには、面白いエピソードがたくさんあるのですが、私が一番好きなところです。
2.FastLabel
「AIインフラを創造し日本を再び『世界レベル』へ」。パーパスがかっこいい「データ領域」のAIベンダーです!
いまAI業界では、モデル開発の進化が凄まじく、高度なものが続々登場しています。皆さんお使いのChatGPTをみても、そのことは実感できるのではないでしょうか。
ただ、産業用のAIを現場で活用するためには、高品質なデータが欠かせません。たとえば自動運転の場合、人や車を認識できるよう、AIに映像や画像を学習させています。どんな映像でもよいわけではなく、前段にはAIが学習できるよう教師データを作成し、現場で運用できるよう管理するなど、データ開発の工程があるのです。
実はこのデータ開発がまだまだ人力に頼っていて、全体の開発工数の7割を占めると言われるほど大変。FastLabelは、教師データの作成にAIを活用したり(つまりAIがAIを教える!)、効率的なデータの管理システムなど、データ開発向けの自社プロダクトを提供しています。
さらに、モデル開発の支援も含め、現場でのコンサルティングも提供しているのが、同社の強み。サービスで顧客のリアルなニーズを吸い上げ、プロダクトに反映させて、さらに現場で活用するというサイクルがまわっている。これは、簡単に他社がマネできません。
前述の通り、AIの競争はモデル開発に集中しており、同社の存在は世界的に見ても希少。まだ小さなスタートアップですが、トヨタやパナソニック、ソニーと、製造業を中心に名だたる企業が採用しているのは、その証しでしょう。2026年に上場を予定しており、今年はさらに存在感が高まるはず。
3.シコメルフードテック
フード業界向けに、「シコメル」「シコメルストア」というサービスを提供するBtoBの会社です。
「シコメル」は飲食店などの仕込み作業を外部化できるサービス。全国の飲食店と、提携する食品工場をマッチングします。コーディネートも行うので、調理済みのレシピを預けると、味や見た目を忠実に再現した仕込み済み商品を製造できます。
店舗では最終的な調理や盛り付けだけ行えばよいので、人件費をはじめ固定費を大幅カットできます。ある海鮮丼店では切り付け済みのネタ、味付け済みの酢飯を利用。お店には包丁も炊飯器も置いていません。
今回、さらに注目したいのは「シコメルストア」です。17のジャンルから、他社が開発した仕込み済み商品を発注することができます。これって、特に飲食業界で深刻な人手不足の問題と、飲食店の価値向上を同時に実現する、新しいシェアリングエコノミ―だと思うんです。
まず買い手は、他店のノウハウを活用して、自店舗のメニューを充実させられます。大量生産の冷凍食品などコモディティではなく、ミシュラン星付き店舗の人気メニューや老舗焼肉店の絶品スープなど、付加価値の高い商品がそろっています。
売り手は、自分たちのノウハウを活用して、新しい収益を得ることができます。ふつう、飲食店はお店のキャパ以上の売上は見込めませんが、これなら地域や席数を超えて、ビジネスを展開できます。
地域の隠れた名店、腕に自慢の料理人がスターになる! 私はそんなふうに予測しています。
まとめ
冒頭にお伝えしたように、この3社には、いずれも貴重なビジネスのヒントが隠れています。YAOKIは「BtoBからBtoCへの展開」、FastLabelは「サービスとプロダクトの循環」、シコメルは「ノウハウの新しい価値化」。ぜひ、事例を研究して御社のビジネスに活かしてください。
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