自己効力感の魔力
- 小越 建典

- 7月8日
- 読了時間: 3分

数年前まで、ぼくは「合コン」という名の社交界に、しばしば招待を受けていた。そんなとき、友人のお誘い文句としては、次のようなパターンがある。
「今度の金曜に楽しい飲み会があるから、来ない?」
「今度の金曜、飲み会盛り上げに来てくれない?」
前者だと、なぜかちょっとおっくうな気持ちになって、「あ、その日?ちょっとなー」などと、もったいをつけたくなる(結局参加はする)。しかし不思議なことに、後者だとがぜん前向きな気持ちになり、トークの切れ味に磨きをかけて、参加したくなる。
これが「自己肯定感」ならぬ「自己効力感」だ。
心理学者バンデューラが提唱した概念で、平たく言えば「自分の行動が何かを変えられる」という感覚のことだ。
「楽しい飲み会がある」と言われても、ぼくは大勢の中のワンオブゼムでしかない。でも「盛り上げてくれ」と言われた瞬間、ぼくは「いなければ場が成立しないかもしれない」という微妙な存在に格上げされる。
「おいおい頼むよ〜、しょうがないなあ」という気持ちにさせてもらい、喜んで手のひらの上で踊ることができるのだ。
この自己効力感、実はマーケティングでも、結構巧妙に設計へ組み込まれている。
例えば、ファミリーマートの「涙目シール」。
ファミマは賞味期限が迫った食品の値引き訴求を「エコ割シール」から「涙目シール」に換えた。涙目をしたおにぎりのキャラクターが「たすけてください」と訴えるシールである。これにより、値引き品の高倍率が5ポイント向上したそうだ。
食品ロスを削減する取り組みだから「エコ割」は正しいのだが、理性には訴えても、心に訴えるものがない。ところが、ファミマの計算だとわかっていても、うるうるした目で訴えられると、何かしてあげたくなる気持ちになる。ちょっとかもしれないけれど、やっぱり感情が動くのだ。
値引き品を買う言い訳にもなるかもしれない。「安いから買う」ではなく「私が救った」に変わった瞬間、感情が損得を超える。
ユーザーとの共創マーケティングにも相性がよい。例えば、有名な味の素の「冷凍餃子フライパンチャレンジ」だ。
発端は2020年、SNSに挙がった「ギョーザがフライパンに張り付く」という1件の投稿だった。普通ならクレーム対応で終わる話を、味の素の広報は「検証のためフライパンを譲ってほしい」と返信し、さらに「古いフライパンを送って」と一般に広く呼びかけた。
すると、予想を大きく超える約3500個ものフライパンが集まる。味の素は、届けられたすべてのフライパンを3DスキャンしWebで公開。さらに餃子を焼いて検証する過程をnoteで発信した。顧客を巻き込みながら、張り付きの原因を見事突き止めて、改良品の発売までこぎつけたのだ。
最初にSNSに投稿した人、さらに呼びかけに応えフライパンを送った人は、ここまでの展開、メーカーの真剣な対応は想像していなかったろう。
一部始終を見守ったギャラリーも含め、自己効力感の高まりによって、ブランドへの信頼が強化されたことは想像に難くない。
合コンを「盛り上げて」と頼まれて張り切っていたぼくと、涙目シールにほだされて値引き品へ手を伸ばす人と、古いフライパンを箱に詰めて送った人。この三者は、掘り下げれば同じ行動原理で動いている。
「いい商品がある」「メリットがある」と言われても動かない人が、「あなたがいないと困る」「あなたにできることがある」と言われた瞬間に、相手のメッセージを自分ごととして考え始めるのだ。
皆さんの会社、ビジネスの中でも「自己効力感」を活かせるシーンがあるはずだ。試しに、「今度飲み会があるんだけど、盛り上げに来てくれない?」と、同僚を誘ってみてはいかがだろうか。
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