人にはさまざまな「熱」がある。
燃えるような情熱、
あたたかく見守る優しさ、
応援したくなる共感、
相手を理解し一致点を見出す冷静さ。
その人、その時だけに起こる
生々しい感情を印刷物やWebなど
メディアに乗せて届ける。
それが、藤田のいう「熱を伝える」だ。
コロナ禍の苦境に際して、
藤田が導き出した経営理念であり、
cte.の生き残り戦略でもある。
もちろん、簡単にはできることではない。
本当に可能なのか?
どうやって実現するのか?
今の藤田は、明確に答える。
「例えば、丁寧に仕事をすることだ」
cte.に入社して27年、
代表を引き継いで17年、
藤田の仕事人生は
メディアとテクノロジーの進化とともにある。
雑誌や書籍がアナログで制作されていた時代、
cte.の祖業である組版※は高い技術が求められる、付加価値の高い仕事だった。
出版物も多かったから、
大量にある仕事を「こなす」ことで、売上は上がっていった。
しかし、制作のデジタル化が進むと、
組版に職人技の介在する余地が縮小する。
また、雑誌が休刊するなど、
印刷物の需要自体が減っていった。
こうなると、組版の事業が厳しくなる。
「『こなす』だけでは厳しい」
切実な想いを抱いた藤田は、システム開発、Webや動画制作、
企業のブランディングと、
新規事業を展開してきたのだが…
「熱を伝える」と言ったところで、
はじめは笑われるだけ。
正直に言えば、うまく行ったことより、
悔しく、恥ずかしい思い出のほうが
ずっと多い。
それでも、藤田は考え続けてきた。
「熱を伝えるには、どうすればよいか?」
考えるうちに、身近なところから、
「熱」の輪郭が見えてきた。
例えば、組版の担当者が、
ミスなくスムーズに仕事をすれば、
その分、全体の進行に余裕ができる。
当たり前のことのようだが、ここにもちゃんと「熱」はある。
まず、著者と編集者は何らかの「熱」を持って、読者に情報を伝えようとするわけだが、円滑な進行は、それを間接的に助けている。
そして、陰で支える担当者の想いは、
日頃のメールや電話などのやりとりを通し、
その人自身の「熱」として著者や編集者に伝わっているはずだ。
このように「熱」が交換されるほどに取引先や読者に選んでもらえる。
藤田は、そんなふうに仕事を見るようになった。
まして今後、機械が人の柔軟性や創造性を代替するようになればなおさら、
均質で高品質な商品やサービスが当たり前になり、プロセスにおける「熱」の量や種類が付加価値になる。
そして、「熱」は人間だけが提供できる付加価値だ。
AIやロボットが人の感情を持つように見せることはできるかもしれないが、それは感情を高度にシミュレートしているだけ。
「熱」を伝えて人を満足させることはできない。
「どんなにテクノロジーが発達し、AIやロボットが活用されても、お金を払い価値を受け取るのは人です。それを提供する起点もまた人という社会の構造は、まず変わりようがない」
藤田は自ら生んだ「熱を伝える」のスローガンに、改めて壮大なビジョンを見出している。
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