人の心に届くマーケティング3選
- 小越 建典
- 3月26日
- 読了時間: 4分

マーケティングって、モノを売るだけのものじゃない。そう思わせてくれるマーケティング、PRの事例を3つご紹介。お忙しい年度末、つかの間ほっこりしていただければ、うれしいです。
1. クレヨンしんちゃんが伝えた「ありがとう」
「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」
セリフの主は、みんなの人気者クレヨンしんちゃん。食材宅配のオイシックスが2019年の夏に、春日部駅(クレヨンしんちゃんの舞台)に出稿した広告です。
子どもにとっては楽しい夏休みですが、お母さんたちは毎日3食つくる必要があり、とても忙しい時期です。オイシックスの調査では、なんと75%以上のお母さんが「夏休みは普段より大変、疲れる、憂うつ」と感じていることがわかっています。
子どもの楽しい夏休みは、お母さんのがんばりがあってのこと。その事実に光を当て、代弁したしんちゃんの広告は、「うるっときてしまった」「しんちゃんの言葉がすごく嬉しかった」「電車の中で見るのは危ない…(泣いてしまうから)」と感動の声を多数呼びました。たった1カ所、1週間の掲示にもかかわらず、Twitterで20万回以上もシェアされ、大きな話題になりました。
2. 「あなたは思っているより美しい」ダヴの心温まる実験
あなたは鏡を見たとき、自分のことをどう思いますか?
化粧品ブランド「ダヴ」は、多くの女性が自分の美しさを過小評価しているのではないかと考え、ある実験を行いました。
呼ばれたのは、FBI所属の似顔絵捜査官ジル・ザモラさん。女性たちの姿を直接見ることなく(ふだんは目撃証言などを元に似顔絵を描いている)、女性たちの似顔絵を「2枚」描いてもらったのです。1枚は、絵の女性本人による説明、もう1つは第三者がその女性を説明して、描いたものです。
結果は驚くべきものでした。
同じ人を描いたはずなのに、2枚の似顔絵を並べると、明らかな違い。第三者の描写をもとに描かれた似顔絵の方が、ずっと美しく、幸せそうで、実際の姿に近かったのです。自分の容姿に対する評価が、著しく低いことがわかりました。
メッセージは、「あなたは、自分が思うよりも、ずっと美しい」。この実験を記録した動画(現在は残念ながら公式サイトから削除)は、わずか12日間で5,000万回も再生され、現在では1億8,000万回近い視聴回数を記録。世界中の女性たちが「私も同じだ」と共感したのです。
3.「スープは誰のためにもある」理念を貫いた勇気
「なぜ子連れだけを優遇するの?」「お店がうるさくなるじゃない」
2023年4月、スープストックトーキョーが全店舗で「離乳食の無料提供」を始めると発表したとき、SNSではこんな声で荒れ始めました。賛否両論、約14万件ものツイートが寄せられる騒ぎになりました。
通常の企業対応であれば、「配慮が足りなかった」など謝罪して幕引きを図るかもしれません。しかし、同社は謝罪も、サービスの中止もしませんでした。1週間後、会社の創業理念「Soup for all!(すべての人のためのスープ)」を丁寧に説明する声明を出したのです。
私たちスープストックトーキョーの企業理念は、「世の中の体温をあげる」です。 スープという料理を通じて身体の体温をあげるだけではなく、心の体温をあげたい。 そんな願いを一杯のスープに込めた事業を行っています。
その理念のもと、さまざまな理由で食べることへの制約があったり、自由な食事がままならないという方々の助けになれればと「Soup for all!」という食のバリアフリーの取り組みを推進しています。
<中略>
私たちは、お客様を年齢や性別、お子さま連れかどうかで区別をし、ある特定のお客様だけを優遇するような考えはありません。
私たちは、私たちのスープやサービスに価値を見出していただけるすべての方々の体温をあげていきたいと心から願っています。皆さまからのご意見を受け止めつつ、これからも変わらずひとりひとりのお客様を大切にしていきます。
世の中の環境の変化が激しい中、社会が抱える課題もさまざまです。それらを私たちがすべて解決できるとは思っていません。でも、小さくてもできることもあるとまじめに思っています。 ひとつひとつですが、これからも「Soup for all!」の取り組みを続けていきます。 どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
「赤ちゃんは自分で注文していないのに、お金を取るのはおかしい」という素直な思いから始まった離乳食無料サービス。これは特定の顧客だけを優遇するものではなく、創業以来の「すべての人にスープを届けたい」という理念に基づくものでした。
あたたかくも毅然とした態度は多くの共感を呼び、騒動は収束に向かいました。すばらしいリリースなので、ぜひ全文を読んでみてください。
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