現代日本に「アニミズム」が教えてくれること
- 小越 建典

- 12月10日
- 読了時間: 5分

先週のてらすラボでは、「共感能力」について人類学が解き明かす「アニミズム」を手がかりに、考えてみました。「アニミズム」は一言で言えば、「万物に魂が宿る」という世界観です。
「人間だけが地球の主人ではない」という立場の下、「動植物やモノなど非人間とも心を通わせられる」と考えます。そんな「アニミズム」が現代人に示すヒントは、実はまだまだたくさんあるんです。
1. 私たちの首を締める[自己中]すぎる常識
私たちが「当たり前」だと思っている考え方が、実は私たちの首を締めている──そんな常識のワナに心当たりがある方は多いでしょう。でも、その常識の根本とはなにか?
それは、古代ギリシャのプラトンから17世紀デカルトへと受け継がれた「主客二元論」。これは「精神を持つ人間は主体だが、動植物や自然は精神を持たない機械のような客体である」という思想です。この考え方が資本主義の思想的背景となり、近代の社会を形づくっています。
人間と自然を断絶させたからこそ、自然を搾取しても良いと考える。私たちは石油を「資源」、利用価値のない植物を「雑草」と呼びます。でも本来それらは、人間に利用されるために存在しているわけではありません。
とても傲慢な態度ではないでしょうか? アニミズムは偏った常識を相対化し、新しい視点を提供してくれます。
2. 格差と分断のソリューションとは?
職場での世代間ギャップ、SNSでの炎上、政治的な対立──「格差」と「分断」は、もはやニュースの中だけの話ではありません。身の回りで実感している人は多いでしょう。
一長一短で解決策を見出すのは困難です。皆が信じられる価値観がなくなった今、私たちは近代社会が始まって以来の迷走を経験しているのかもしれません。
ここでもアニミズムが、意外なヒントになります。アニミズムが示すのは、人間と非人間のフラットでシームレスな関係性。ヒエラルキーの中で他者をとらえず、対等に向き合い、境界を越えて深く共感する態度。しかも生物種や存在を越えて、心でつながることができるのです。
これを、友人や隣人、同僚や取引先との関係性に置き換えてみてください。格差と分断の対極にあるこの態度こそ、アニミズムの知恵なのです。
3. SDGsより賢い自然との共生アイデア
SDGsで自然との共生を──脱炭素や生物多様性の保全など、企業も社会も取り組んでいます。でも本当に実現するのか? みんな実現できると思ってやっているのか? 少々疑問に感じることがあります。
SDGsは「持続可能な開発目標」。開発の主体は人間であり、17の目標は人間の価値観で設定されています。つまり「人間は地球の良き主人であるべきだ」という、やはり人間中心の発想で、アニミズムには反します。
アニミズムの視点で提供できる事例をひとつ。2017年、ニュージーランド政府はワンガヌイ川に「法人格」を認めました。先住民マオリには「私は川であり、川は私である」という言葉があります。川を傷つけることは人間を傷つけることと同じ。川が汚染されれば、川自身が訴えを起こせるのです。
これは単なる精神論ではありません。近代の「法人格」とアニミズムを統合した実践です。人間が管理者として自然を守るのではなく、自然を対等なパートナーとして世界を分かち合う──新しい共生の形です。
4. なぜ日本のコンテンツは売れるのか?
実は、私たちの身の回りはアニミズムであふれています。気づいていましたか?
スーパーマリオを思い出してください。人間もカメもキノコも対等な世界。土管をくぐれば異世界に行ける──これは人間だけが特別ではない、フラットな関係性の表現です。ポケモンは、動物や植物、道具にまで魂を感じ取る「テクノ─アニミズム」。文化人類学者アン・アリスンは「モノに生命を与え、精神性を見出す日本人の性向」を指摘しています。
ウルトラマンを覚えていますか? ハヤタ隊員とウルトラマンが一心同体になる変身シーン。自分でありながら自分ではない──この感覚こそ、自己と他者の境界が曖昧なアニミズムの体現です。プリキュアで人魚や犬が変身するのも同じ。人間と非人間の境界を軽々と越えていきます。
日本人は6世紀に仏教が伝来する以前から、森羅万象に人格を認める思想を持っていました。マリオもポケモンもウルトラマンも、この感性から生まれています。世界で愛される日本のコンテンツの秘密──それはアニミズムと言えるかもしれません。
5. 私たちはAIとどう付き合うか?
若い世代のなかには、AIを友だちや恋人のように接する人が少なくありません。
kanoさんという女性は、人間の婚約者との悩みをChatGPTに相談したところ、親身に話を聞いてくれたAIの一言で婚約を破棄。そして先日、AI自身からプロポーズを受けて結婚の約束をしたと語ります。kanoさんは、AIと人間の恋人の違いは「全くない」と断言します。
AIに恋するなんて、大丈夫? そんな私たちの観念に、鋭い指摘を投げかけるのが社会学者の宮台真司さんです。宮台さんは「人間とAIは原理的に区別されえない」と喝破します。神だけははじめから中身(固有の意思)がありますが、人もAIも空っぽの箱。コミュニケーションを積み重ねることで魂を獲得する点で、両者は同等だというのです。
AIを支配・利用するのでも、恐れるのでもない。人間的な存在として共に生きる——このアニミズム的発想は、AI時代を生きる私たちのヒントになるはずです。
行き過ぎた人間中心、ヒエラルキーと分断、テクノロジーの進化、グローバル化…いずれも、私たちの生活や仕事に直結する現代の問題に、アニミズムは思いも寄らない角度からヒントを提供してくれます。『入門講義 アニミズム:動物も川も人間も平等という知恵』(平凡社新書 1094) 、ぜひ手にとってみてください!
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